2019年9月の定例講演会/消費税10% どうなる景気/中央大学法科大学院特任教授/森信 茂樹 氏

日 時 2019年9月18日(水) 午後1時30分~3時

会 場 ロイヤルホールヨコハマ5階「リビエラの間」

講 師 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹  氏


中央大学法科大学院特任教授で東京財団政策研究所研究主幹の森信茂樹さんが「消費税10% どうなる景気」と題して講演。「2025年以前には税率10%を超える引き上げが不可避」と話した。

講演要旨は次の通り。
 ▽日本では消費増税後にその分だけ物価が一気に上昇したが、欧州にはそれがなかった。事業者は価格決定の自由度を持つ。価格は需要と供給で決まるもので、消費税というコストだけで決まるものではない。日本では消費税が数あるコストの一つという認識が欠如している。
 ▽消費増税前の駆け込み期は、需要が供給を上回っている状況で、欧州では商品価格が上がり、日本では需要をさらに喚起しようと下がる。欧州の価格表示は内税(総額表示)で増税前に上げやすく、増税後の上昇カーブは緩やかだ。日本は外税の特例が導入され、増税前に上げると便乗と批判される。需要が強い時は上げてもいいのではないか。表示は総額一本にするべきだ。今回は駆け込みがほとんどなく、経済への影響は軽微だろう。
 ▽消費増税による納税者の負担増は5.2兆円。半分は幼児教育無償化や介護保険料の軽減などで、特に子育て世代に返すことになる。これはじわりと日本経済にいい影響を与えるだろう。残り半分はポイント還元などの景気対策。増税分は来年度まで2年間、財政再建には回らない。軽減税率は複雑で最悪の経済政策。効果は期待できない。むしろ適用拡大を巡って利権型政治が繰り返されるかもしれない。
 ▽財政赤字や社会保障費の増加などで、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる25年以前に、税率10%を超える引き上げが不可避。日本は「親切・軽税国家」だが、世界には「親切・重税国家」か「冷淡・軽税国家」しかない。受益と負担の具体的な姿や選択肢を示し、国民の選択として議論していく必要がある。

 

もりのぶ・しげき 1950年広島市生まれ。73年京都大学法学部卒業、大蔵省入省。88年ロンドン駐在大蔵省参事(国際金融情報センターロンドン事務所長)、92年証券局調査室長、93年主税局調査課長、95年主税局税制第二課長、97年同総務課長。98年大阪大学法学研究科教授(租税法、租税政策)、01年東京大学法学政治学研究科(ビジネスローセンター)客員教授(兼務)、財務省財務総合政策研究所次長、政策研究院大学客員教授、03年東京税関長、04年プリンストン大学客員研究員・講師、コロンビアロースクール客員研究員。05年財務省財務総合政策研究所長、06年財務省退官、中央大学法科大学院教授、ジャパン・タックス・インスティチュート設立。18年東京財団政策研究所研究主幹、中央大学法科大学院特任教授。政府委員として10-12年政府税制調査会専門家委員会特別委員。

著 書

「デジタル経済と税」(日本経済新聞出版社、2019年)、「税で日本はよみがえる」(日本経済新聞出版社,2015年)、「合同会社(LLC)とパススルー税制」(共著 金融財政事情研究会 2013年)、「消費税、常識のウソ」(朝日新書 2012年)、「マイナンバー」(共著 金融財政事情研究会 2012)、「どうなる?どうする!共通番号 」(共著 日本経済新聞出版社 2011)、「日本の税制 何が問題か」(岩波書店 2010年)、「金融所得一体課税の推進と日本版IRAの提案」(金融財政事情研究会 2010)、「給付つき税額控除」(中央経済社 2008年)、「抜本的税制改革と消費税」(大蔵財務協会 2007年)、「日本がよみがえる 租税政策」(中公新書ラクレ2003年)、「わが国所得税課税ベースの研究」(日本租税研究協会 2002年)、「日本の税制」(PHP新書 2001年)、「日本の消費税」(納税協会連合会 2000年)、「大学教授物語」(時評社 2000年) 、「欧州金融新秩序」(日本経済新聞社 1991年)、「ソ連経済最新事情」(東洋経済新報社 1983年)