2013年1月講演会「はじまりは坂の途中で~日本文学から日本人について学べるものとは」/東京大学大学院 総合文化研究科教授・ロバート キャンベル氏

日  時  2013年1月21日(月) 14時00分~15時30分

場  所  横浜情報文化センター 6階「情文ホール」

講  師  東京大学大学院 総合文化研究科教授  ロバート キャンベル氏

 


 

 ▽司馬遼太郎さんの小説をもじっていますが、目的に向かって準備している坂の途中で発見があり、出会いがあることを言いたかった。昨夏、大分県日田市で調査した儒学者の広瀬淡窓の学問所の話をしたい。
 ▽19世紀初めの学校で、13歳から21歳までの学生に実際的な学問を教えた。広瀬は、けんかの仲裁をしない放任主義。収まったら、「思いついたまま」の詩を紙に書いて柱に張り、文字でメッセージを伝えた。若い人は人の反応を気にする。コミュニケーションとして漢詩を使ったわけです。
 ▽漢詩は古典的・様式的なものが多いが、「詩は実際を貴ぶ事」と広瀬は自分が感じ、考えたことを大切にした。同じ時期の松崎慊(こう)堂(どう)という人の詩にも、形、枠を踏み外さないという江戸時代に、自我の存在を磨き上げ、個性を重んじる面があった。
 ▽福井の歌人、橘曙覧(あけみ)の「独楽吟」は、家族と一緒にいる父親のうれしさ、楽しさが52首にまとめられ200年たった今でも注釈なしに読めます。渡辺崋山の美人画にも詩と通じる思いが見えます。